No.55 地下おじさん3


とうとう私は地下おじさんと仲良くなりました!


8月のある日、買い物帰り、チャリのハンドルに買い物袋を
たくさん下げていたので、チャリを押しながら地下道を
歩いていました。


いつものポイントに地下おじさんがいたので「チャオ」軽く
挨拶をすると、おじさん、めづらしく近寄って来て


「チャオ!! 君はどこの人だい?日本?日本人か。名前は?」


「アイです」


「アイ?アイってアイアイアイのアイかい?」
(イタリア語で「痛たたた」)

と聞く地下おじさん。


「ずいぶんシンプルな名前なんだねえ」


「イタリアの人はみんなそう言うけどね、日本語でアイは
『ィタタタタ』じゃなくて『アモーレ』の意味ですよ」


「オッー!なんと、アモーレ!アモーレかい?いい名前だね
アイ、アモーレ。アイ、アモーレ…」


さすが地下おじさんもイタリア人。アモーレという言葉には
目の輝きが違います。


「ところでねアイ、アモーレ。僕はサルバトーレって言うんだよ。
シチリア出身なんだけどね。」


おじさん、バカンスで町の人が出払っていて地下道を
通る人が少なくてつまらなかったのか、私をつかまえて
ハイテンションでしゃべり出した。


でも、おじさん歯がないのでフガフガしていて、今ひとつ
何を言っているのかよくわからない。


よくよく耳をすまして聞いたら、どうやらオチのつく
小話をしているよう。


例えばこんなかんじ
「『隣の家に塀ができたんだって。へー』
'塀'と'へー'だよ、わかるかいアイ?笑っちゃうだろ!」


こんな感じのだじゃれみたいなのを言って
ケッケッと楽しそうに笑う。


なんだかよく内容はわからなかったけど、オチがついたところで
「あ〜。塀とへーね、おかしいね!」
一緒に笑っておきました。


ひとしきり小話が終わると


「チャオ、アイ」


普通の握手ではなく、腕相撲スタイルの組み方で固く握手をかわして
別れる。


おじさん、なかなかカッコいい。


私が去った後、また次の通行人をつかまえて


「ちょっと、日本語でアイってどういう意味か知ってるか?
しらないでしょ。アモーレだよ!アモーレ!マンマミーア!」


最近はこんな感じで、会うたび小話を聞かせてくれ、
別れた後は地下中に響き渡る声で「アモーレ」を宣伝して
くれる、地下おじさんなのでした。