No,18 プロフェッソーレ 

ミモザの花が終わり、満開だった桜もいつの間にか
見えなくなったな…と思っていたら、今度は
藤の花と八重桜が咲き始めました。


近所のスーパーの駐車場にはとても大きな藤棚があり、
まさかフィレンツェでこんなに美しい藤の花を
見られるなんて!


このカスタード色をした街に藤の紫は
とてもきれいに見えます。 


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☆ プロフェッソーレ 


私のジュエリーの師匠は、’プロフェッソーレ・ビーノ’


ミスタービーンならぬ’シィニョ―ル・ビーノ’
本名「ビーノ・ビーニ」


なんとも響きの良い、覚えやすい素敵な名前を
お持ちの大マエストロであります。
御歳86歳。


ジュエリーや彫刻の作家として若い頃はご活躍されていた様で、
イタリアのみならず、日本でもその世界の人にはちょっと
知られた存在。(東京にも、プロフェッソーレが製作した
大きな象のモニュメントがあるそうです)


先日、若い時にローマ法王と撮った写真を見せて下さいました。
他にも、エリザベス・テイラーと撮ったものもあり、
「こうやってエリザベス・テイラーの手をとって
キスしたんだよ」と自慢げに話していました。



このプロフェッソーレ、お歳がお歳なだけあって
話がかなりリピート気味。
私の顔を見る度に


「君は日本のどこ出身だい?」
「ト、トウキョウです。トウキョウ、トウキョウ」


かなりな親日家のようで、日本のことはいつも
「日本はいいところだね。特に京都はいいよ。
山があって川があって、古い街でね、フィレンツェと似ているよ。
でね、日本の人はみんな親切だね」
と褒めて下さいます。



他の生徒さんは、毎回のように繰り返されるこの
プロフェッソーレの話に聞きあきて、しかも捕まると
長いので、うまいこと逃げていく。


でも、言葉がまだあまりできない私は
「何をしゃべっているのか」と耳をすましてしまい、
同じく先生をしている娘のアンナさんが


「バッボ(パパ)!アイはイタリア語まだ余り
わからないからそんなに色々言ってもダメよ」


と、止めに入ってくれるまで、エンドレスなプロフェッソーレの
昔話を聞くことになってしまう。。。


でも、繰り返し同じ内容を話してもらえる事は
ヒアリングの練習にもなるので、私にとっては
大変有難かったりもする。


2回、3回聞いて、わからなかった言葉を家に帰ってから
調べたりしているうちに、少しづつ内容がわかるようになってくる。
プロフェッソーレのお陰で覚えることができた単語もいくつかある。


「このプロフェッソーレの話しが、みんなのように聞き飽きるほど、
完璧にわかるようになりたい…」
コレが私の目標。


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プロフェッソーレ、大変失礼ながら、ちょっとボケが
始まってきてはいるけれども、作っているものは凄い!!


いつも隣でコツコツと打ち出しのメダリヨン(銅版をレリーフ
ように打ち出していくもの)を作っておられる。


とても細かい作業で、写真を見ながら作っているそれは
まるで3D。写真がそのまま浮き出したかのようである。


人間、脳が老化しても、長年培ってきた技というものは
衰えないのだな。
それだけの技術をお持ちでいらっしゃるということなんだな、
凄いな…。


私もおばあちゃんになって、頭がボケて、
老眼鏡を頭に載せたまま「メガネ、メガネ…」
とメガネを探しているようになってしまっても、
このプロフェッソーレのように、素晴らしい作品を
作っているおばあちゃんになりたい。


どんな形であれ、やっぱりジュエリーは作り続けていこう!
そう自分に誓ったのでありました。。。


凄い!凄い!と感心しながら、プロフェッソーレに


「お上手ですね!凄いですね!まったく写真と
同じじゃないですか!!」


つたないイタリア語で思ったままを知っている全ての
言葉を使って言ったのですが、思えばこの大マエストロに向かって
「上手ですね」なんて、
美空ひばりに「おばちゃん、歌うまいね」と
言ったというマッチ(近藤真彦)のよう。


でも、私の言葉にプロフェッソーレ、とても気分を良くしたようで、
私が去った後も他の人をつかまえて
「見て、見て。良く出来たと思わないかい?」
とその作品を見せ、鼻歌をうたいながらごきげんで
製作に励んでいました。


人間、どんなにプロになっても、大マエストロになっても
褒められるということはうれしいことなんだな…。


確かに、プロになればなるほど、大人になればなるほど
「できてあたりまえ」で、褒められることなんて
無くなってくる。


言葉ができなくて、気の利いたことは何も言えない
私だけども”思ったまま”を表現するというのは
案外いいことかもしれないなあ。


ただ「凄い!」だけでも、気持ちは伝わる。
かえってシンプルなだけに、ストレートに伝わる。


でも困ったことにプロフェッソーレの話が30分以上続くことがある。


そんな時は
「プロフェッソーレ、待って!ちょっとコレ、
私やらなければいけないので、また後で…」


ストレートに言うようにしています。